【映画】天気の子

観てきました。

 

■ 天気の子 (2019)

 

世界を救わなかった男の子のお話。

 

エンタメ性やRADWIMPSのMV感は前作より薄まり、良い意味でスッキリとしない映画でした。結末のその後を、考えさせられる、考えてしまう、そんな映画でした。

 

aieou.hatenablog.com

 

日本の宗教的・文化的な要素をうんぬん~とか色々感じたことはあったのですが、特にひっかかったことをいくつか。

 

◆ 道徳的観点から

 

サリンジャーライ麦畑でつかまえて が作中に2度ほどかな?映っていたの印象的でした。この作品も、青年が社会に閉塞感や理不尽さを感じ、それに抗う図式になっていて。

 

でも、愛があれば、銃を人に向けても、警察から逃げても、法を犯しても、いいのだろうか。

自分は、もう声高々に”いい”とは言えない。いつのまにか社会の歯車になり、この社会がどうやって回っているのか、なんとなくもう知ってしまっている。

 

作中の構図だと警察が悪になってしまうのだ。警察は悪なのだろうか。警察だって、彼らなりの愛があって、信念があって、世界を生きている。

 

自分の愛と他者の愛がぶつかってしまった時、それを双方が譲らなかった場合、解決する策は、結局作中のように暴力しかないのだろうか。

 

たぶん言いたいことは、そんなことではないのだろうけれど、そんなことを考えてしまった。

 

◆ 実名描写について

 

そんなことを思ってしまったのは、彼らの生きる世界が、自分の生きる世界とリンクしすぎていたからだと思う。

普段、映画含めエンタメ作品を観て、道徳的観念が~なんて思わない。むしろ、道徳的非道徳的観念からは離れたところで、問題を提起できるのが作り物の醍醐味だと思っている。

でも、この作品はリアルすぎた。新宿の街も、時折出てくる名前も商品名も慣れ親しんだもので、あまりにも自分の日常の延長線にありすぎたのです。スポンサー的考慮もあったのか、商品名があからさまに主張されるカットも多かった。

 

新宿駅もルミネもビールもカップラーメンも、全部全部、個人的な思い出がそれぞれにあって。そのカットが映る度、自分の経験と劇中の舞台とがリンクしてしまう。

 

そんな繋がっている世界の中で、警察を”自分の行動を邪魔をする存在”として描かれているその構図が、平凡で普通の一般市民である自分にとって、受け入れがたかった。

 

リアルに想像できてむずむずしてしまうのだ。マクドナルドに行きCCレモンを飲みYahoo!の知恵袋に投稿する、そんな世界で、警察から逃げる、ということは、どういうことなのか。帆高くんの犯した罪は、保護観察処分なんてもので済むのだろうか。結構重いものではないのだろうか。実際、あんな青年が近所に居たら、自分は彼にどういう対応を取るだろうか。と、普段の道徳観念スイッチが発動された状態でこの映画の世界をみてしまう。

 

◆ 

 

でも、そのスイッチを頑張って切って、フラットな状態で作品を考えてみると印象的だった台詞はふたつ。どちらもスガさんです。自分の年代的なことあってか、途中からスガさんを主人公として、この作品を観ていた節があります。

 

”最近の若者はすぐに訴える” 

正しさの向こう側まで思考を張り巡らさなくてはいけない、と最近は思う。

今ある正しさは、誰が決めたのか。なぜそれが正しいのか。なぜ、それを正しいということにしたのか。正しさの背景まで、思考がきちんと及ぶようなそんな人間でありたいなあ。

 

もう一つ。

 

”この世界はもともと狂ってる。”

強いな、この台詞って。この世界はもともと狂ってる。強い。

でも、ちょっと愛もあるよね。

 

◆ Radの曲について

 

愛にできることはまだあるかい この曲の歌詞が、作品鑑賞前からとても好きで。

でも、映画を観た後に改めて歌詞を振り返ると、本当に映画のストーリーをなぞっている曲になっていてすごいなあ、って。

初めて聞いた時、最後だけポジティブになるフレーズに、少し違和感を覚えたのだけど映画を観て納得した。確かに、愛にできることはまだ、あったね。

 

◆ 

 

映像は本当に美しい。雨をあれだけの規模であんな魅力的に幻想的に描いてしまう。アニメーションってやっぱりずるい。

 

君の名はのような軽いエンタメ性を求めて観に行った今作でしたが、良い意味で裏切られました。自分の思考の物差しをガツンと殴られたような、そんな、作品。

 

子ども向けではないし、大衆向けでも本当はないと思う。

でも、大衆向けのようにしてしまう、そのバランス感覚が怖いなって。

 

 

どこからか読んだインタビューについて。

記事は後で探します。 

 

・ 全体的にちょっと村上春樹っぽいなって思ったのですけれど、その感覚は間違いではなかったみたい。あと、あのサリンジャーも村上訳のものらしい。

 

・ 君の名の畳み方について、賛否両論あったことを初めて知った。

個人的に得意な終わり方ではなかったけれど三葉のお家のことを考えるとアリになった。でも、実際の震災と絡めた意見もあったんだなあ、って。

 

 

小説 天気の子 (角川文庫)

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